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対象疾患

唇顎口蓋裂

1.はじめに

 

上下顎骨は、口腔・顎・顔面の形態および機能をつかさどるものの一つである。その顎骨の奇形・変形を来すものがあり、原因別にみると先天的なものと後天的なものに大別される。先天的なものの代表としては、唇顎口蓋裂(口唇・口蓋裂)患児にみられる顎口蓋裂がある。後天的なものとしては、顎骨の過成長あるいは劣成長による顎変形症である。

2.唇顎口蓋裂(口唇口蓋裂)について

口腔顎顔面領域の先天性奇形の代表的なものである。その発生頻度は、一般に日本人新生児の500600人に1人といわれている。

原因は遺伝的要因と環境的要因の両者が複雑にからみあっていると言われている。発生機序は組織癒合不全説と中胚葉欠損説がある。口唇裂の場合には未だ両者の説が言われているが、口蓋裂は後者の説が信じられている。胎生期の第二鰓弓の突起の閉鎖癒合不全により生じる。胎生5560日で、上顎突起の内側にある二次口蓋突起が閉鎖され口蓋部が形成される。ちなみに、口唇は胎生6~7週頃、軟口蓋および口蓋垂は胎生12週頃に完成する。よって、この胎生期発育過程の間に何らかの障害をうけ、口唇口蓋裂が発生する。唇顎口蓋裂にも様々な裂型があるのは、その障害をうけた時期・部位により口唇のみのものや、軟口蓋のみのもの、片側か、両側か、完全か、不完全かというように、それぞれ種類や程度が異なってくる。そして、その障害も様々となり、治療も変わってくる。

 唇顎口蓋裂にみられる障害は、美的障害、哺乳障害、言語障害、歯列不正、上顎骨劣成長(顎変形)、中耳炎などの耳疾患そして精神心理学的障害など多岐多様にわたる。そのため、これらの障害に対し、産婦人科、小児科、耳鼻科、形成外科、精神科および歯科医師。さらに、言語治療師、看護師、栄養師、ケースワーカーなどのチーム医療で取り組まなければならない。しかも出生直後から成人に至るまで一貫した治療が必要である。

 

3.治療体系

 

 一貫治療においては、計画性をもって進めていかなければならない。その計画書なるものとして、患者の年齢や治療部位そして治療内容による治療期分類を表1に示す。これにより、患児の全身および局所状態そして家庭環境により多少の変更は余儀なくされることもあるが、ほぼこの治療計画により治療が進められてゆく。正に、「障害を無くし、自立した人生を送れる」というアウトカムをもったクリティカルパスである。

 では、唇顎口蓋裂を中心として、その治療の時期別に治療の概要を解説していきます。

 

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 一貫治療においてこの時期の治療が最も大事である。これは、「ご出産おめでとうございます」となった翌日から始まる。患児をもつ母親・父親そして祖父母への患児の奇形の状態の説明そして今後の治療について話をするが、一応に動揺や落胆や不安な顔を前にして現実と将来への希望を話しすることはなかなか容易ではない。ただし、最近では胎児エコーにより出生前より口唇口蓋裂がわかることもあり、出産前から家族への精神的ケアがなされ、スムーズに治療に移行できるケースも出てきている。

治療の第一歩は哺乳障害への対策である。当科では、1997年よりHotz床を用いた治療を行っている。このHotz床とは、チューリッヒ大学の歯科矯正医Hotzが考案した口蓋床で、哺乳障害の改善と顎誘導を期待するものである。これは、生後なるべく早期(2448時間)に装着するのが望ましいと言われている。

 

片側完全口唇口蓋裂 口の中の型をとり、
作成したHotz床
Hotz床を装着し、
正常に近い哺乳が可能となる。

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 生後4?6か月(体重6㎏)で、口唇形成術を行う。患児が初めて受ける手術である。美的障害を改善するための最初の手術であり、かつ最も重要な手術となり、その成否によって、その後の修正手術の回数や人生をも左右すると言っても過言ではないといわれている。

 

片側完全唇裂 口唇形成術後2ヶ月。
口唇と外鼻が形成された。

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Hotz床による顎誘導の継続。

 

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 年齢は1歳半が目安だが、上顎第一乳臼歯が萌出する頃としている。この時期に口蓋裂の最初の手術が行われる。そろそろ患児にとって異物になってきたHotz床もこの手術により必要がなくなる。口蓋形成術はその破裂の状態により変わる。

 つまり、不完全口蓋裂に対しては口蓋後方移動術(いわゆるPush back法)を、そして完全口蓋裂に対しては二段階口蓋形成術の軟口蓋形成術を行う。

 完全口蓋裂に対しては、一期的に行う場合と当科で行っているように二期的に行う場合がある。それぞれ、長所短所があり、一期的の長所は言語障害がきわめて少ないこと、短所は上顎骨の劣成長を来しやすいという点が挙げられる。これが二次的顎変形症のなかに分類される。二期的の長所は上顎骨の劣成長を来しにくいこと、短所は言語障害が一期的に比べ出やすいという点が挙げられる。ただし、軟口蓋形成術が的確に行われ、その後の言語治療により、良好な鼻咽腔閉鎖と正常な構音機能が得られるといわれている。ちなみに当科では二期的手術による口蓋形成を勧めており、この時期は軟口蓋形成術期となる。

 

完全口蓋裂 Perco法Ⅰ期手術。
口蓋の後方部(軟口蓋)を形成・閉鎖した。

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 軟口蓋形成後、硬口蓋形成まで。言語訓練そして刷掃指導を含めた小児歯科治療を行う。

 

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 硬口蓋形成術期である。4歳半から5歳になり、上顎骨の成長は、その45が完成されており、骨口蓋正中側への成長により口蓋破裂部の幅も狭くなっている。この時点での手術により上顎骨の成長を最小限に妨げることができ、将来的な顎変形も最小限にとどめることができる。また言語訓練的にもこの年齢での口蓋形成が必要である。

 

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 口蓋形成術後から顎発育が終了するまでは、口唇・顎・口蓋裂に対する二次手術・修正手術が行われる。また、顎裂部には顎裂部骨移植術が行われる。あわせて言語治療そして歯列矯正などの歯科治療がされる。

 

上唇の瘢痕と赤唇のズレがみられる。 上唇修正術により、
人中および口唇の形態が整った。
顎裂と
鼻口腔痩(鼻と口をつなげているアナ)がみられる。
顎裂部には腰骨(腸骨)を移植し、
痩孔は舌を貼り付けて閉鎖した。

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顎発育終了後の治療で、必要に応じて顎変形症に対する手術療法を行う。上下顎骨の前後左右の骨格的ズレが大きい場合には、手術により顎顔面の変形を治し、咬合を改善・回復することになる。

外科的顎矯正手術と呼ばれ、その歴史は50年にもなり全世界で同じ術式が行われている。手術術式には、上顎骨切り術(LefortⅠ・Ⅱ・Ⅲ型を用いた骨切り術)と下顎骨切り術(下顎枝矢状分割術などの下顎移動術)があり、これらの手術術式を単独あるいは組み合わせて手術が行われる。唇顎口蓋裂術後患者の顎変形症は、主に上顎骨の前下方への上顎劣成長によるものとなる。そこで、手術法は上下顎同時移動術になることがほとんどである。ただし、通常のLe Folt Ⅰ型骨切り術に比べ、上顎骨片の分離防止への工夫など手術操作が困難となる場合もある。なお、外科的顎矯正手術については次回の顎変形症で詳しく説明する。

 

4.おわりに

 

 少子化が進む我が国ではあるが、唇顎口蓋裂患児の発生率は変わらない。少子化ゆえに、家族のなかでの子供が占める割合は増している。我が子のためにという意識が高くなっているのも事実である。また、疾病に関する情報もインターネットなどにより容易に手に入れられる時代である。そのような時代背景のなか唇顎口蓋裂患児をもつ家族の要求も以前に比べ強くなっている。それとは逆に、治療途中で放置されてしまった患者も時々お会いする。それ故に、明確な目標・ゴールを持って、一貫した治療体系のもと治療が進められていくことが肝要と思われる。

 

治療期別対象年齢および治療体系
治療期 年齢 治療内容
第1期 口唇形成術前 出生直後から 父母教室、Hotzレジン床
第2期 口唇形成術 4~6か月 一次口唇裂手術
第3期 軟口蓋形成術前 Hotzレジン床
第4期 軟口蓋形成術 1.5歳 口蓋後方移動術または二段階口蓋形成術の軟口蓋形成術
第5期 硬口蓋形成術前 言語訓練、小児歯科 
第6期 硬口蓋形成術 4.5~5歳 二段階口蓋形成術の硬口蓋形成術
第7期 硬口蓋形成術後 口唇裂・口蓋裂の二次手術、言語治療、歯科矯正
第8期 顎発育終了後 17歳以降 口唇裂・口蓋裂の二次手術、歯科矯正、一般歯科治療
*栃木保険医新聞に掲載した記事を抜粋。
当科での、口唇口蓋裂患児の手術に関しては、東京歯科大学口腔外科講座の内山健志教授のご助力を頂いております。

顎変形症

顎の変形を来す原因は不明のものから、幼児期に始まった指しゃぶりそして顎骨の成長発育期に加わった障害に至るまで、多種多様です。

1. 顎変形症とは
 

顎変形症とは、骨格的に頭蓋に対して上顎骨あるいは下顎骨が、過成長あるいは劣成長、成長方向および位置の異常によって生ずるものであり、その結果として顔面の変形と咬合不全を来したものです。

顎変形・発育異常のうち、最も多くみられるのが、上顎骨の劣成長あるいは下顎骨の過成長または前方偏位によっておこる、いわゆる下顎が出っ張った「下顎前突症」です。特に、日本人は欧米人より発症率は数倍高いと言われています。

顎変形症には、遺伝的要素が強いとは言われていますが、原因は不明です。上・下顎骨の成長のアンバランスによってなる特発性ものと、唇顎口蓋裂、巨舌症、Crouzon病などにより二次的あるいは続発的に成長発育を妨げられたことにより生ずるものがみられます。

前歯が噛み合わなくなるのを、開咬症といい、時に歯並びだけの問題ではなく顎骨の変形をも来している場合もあります。強度の開咬症では最後方の歯が1本ずつしか噛んでいないものもあります。原因としては、指しゃぶりや弄舌癖などの悪習癖、扁桃肥大や鼻疾患による口呼吸、巨舌症などがあります。

また、成長期における慢性副鼻腔炎により、上顎洞の拡大が妨げられ結果として上顎骨の劣成長を来すケースもみられます。さらに、顎骨・顎関節部の外傷・骨髄炎などの炎症・顎骨内および周囲の腫瘍によっても正常な顎発育が妨げられたりと、原因は多種多様であります。それゆえに、特に成長期における検診や治療には充分な配慮が必要となってきます。

 

2. 治療法

治療法は、先ずその予防から始まります。原因として言われているうち、指しゃぶりや弄舌癖などの悪習癖は小児科の先生方そしてご家庭でのご協力により予防できることかもしれません。また、扁桃肥大や鼻疾患による口呼吸や慢性副鼻腔炎なども将来的な悪影響をご説明いただき治療にかかっていただくことが重要と考えます。

 顎変形症となってしまった場合、その治療目的は、変形をなくし、咬合を改善・回復することにあります。そこで、先ず必要に応じて、咬合不全改善のための歯列矯正や歯科治療が行われます。お近くの歯科医院あるいは歯列矯正を専門としている歯科医院に是非ともコンサルトしてみて下さい。

当科における治療の流れを紹介します。
治療・処置の流れ

要矯正 矯正不要
矯正紹介  
術前矯正  
(1~2年前)智歯抜歯・補綴治療  
(6ヶ月前)手術 Planning  
(2ヶ月前)術前検査・貯血 ( 1ヶ前)  
入院・手術  
術後矯正  
外来経過観察  


 そこでの治療でも目的が達せられない場合、つまり骨格的ズレが大きい場合には、それに続いて、手術により顎顔面の変形を治し、咬合を改善・回復することになります。この手術は、外科的顎矯正手術と呼ばれ、その歴史は50年にもなり全世界で同じ術式が行われています。

 具体的には、症例によりレントゲン写真や歯型などの分析結果をもとに以下の手術法を選択します。

 ①上顎骨切り術:LefortⅠ・Ⅱ・Ⅲ型を用いた骨切り術。

 ②下顎骨切り術:下顎枝矢状分割術などの下顎移動術。1957年に発表されて以来、最もポピュラーな顎変形症に対する手術法で、Obwegeser原法と Obwegeser-Dal pont法があります。(ちなみに、私はObwegeser-Dal pont法を主に用いている。)術後の神経麻痺が出現する危険性はありますが、比較的安全な手術で、出血量は100㏄以下、手術時間も2時間以内で終了します。

 ③歯槽部骨切り術:ケーレ法などの下顎前方歯槽部移動術。

 ④オトガイ形成術:審美的な要素が大きい手術で下顔面(オトガイ部)の形態を改善します。

 ⑤仮骨延長法:下肢の延長術を顎骨に応用したもので、下顎小顎症の患者に対して物理的に牽引し仮骨を形成させることにより下顎体部(下顎角部)を延長させます。これは、骨切り術と併用することにより下顎非対称症例や下顎後退症症例など、さらに応用範囲が広がっております。

 これらの手術術式を単独あるいは組み合わせて手術が行われています。強度な下顎前突症で下顎骨の後退量が多すぎる症例や上顎骨(中顔面)の劣成長がある症例などは、Le Folt Ⅰ型骨切り術による上顎骨前方移動と下顎枝矢状分割術による下顎骨後退をone stageで行う上下顎同時移動術 two jaw surgery を行う場合もあります。

下顎前突症の1例
手術前
手術前の横顔
下顎が前に突出している
上下の歯は噛んでいない
受け口のかみ合わせ
下顎骨の過成長により
かみ合わせ異常となっている
手術後
突出した下顎は後退した 上下の歯はかみ合わされ
これなら、何でも食べられる
上下の顎の位置関係も正常
手術でかみ合わせ、顔そして性格まで変わった方も
手術前
手術後

3.おわりに  

顎変形症の方や歯列不正の方は、食事が十分にとれないとか、人前で歯を出して笑えない、笑っている写真が少ないなど、少なからず心の悩みを持っている方が少なくないのです。もちろん、食事摂取・咀嚼が不十分であれば病気がちにもなるでしょう。悩みがその人にとって大きければ胃潰瘍にもなります。いつも、伏し目がちなっていれば、暗い人と思われがちです。そのためにも、この様な悩みを持っている方々がいること、そしてそれは治ることを分かりやすく説明できるようにしてあげたいものです。

治療目的はとかく、顔貌や審美的なものにとらわれがちになり、その要求も強くはなってきていますが、本来の目的は、顎の骨の成長が過ぎたりあるいは足りなかったことによる「よくかめない」などといった障害の除去であり、話をする、何でもよく噛み食べられるといった当たり前のことができるようになることです。顎変形症の方が術後に「歯と歯が当たって、食べられるって、こんなに素晴らしいことだったんですね。」と言ってくれることが最高の喜びであります。

 
*本文は栃木保険医新聞に掲載した記事から抜粋。

歯根嚢胞

歯根嚢胞は口腔外科で扱う最もポピュラーな疾患の一つである。歯が原因で顎の骨の中に生じるもので、いわゆる「袋の病気」といわれている。袋の中には、液体が含まれている。風船に水を入れて膨らますのと同じ様に、時間と伴に嚢胞は中に液体を貯めつつ、骨を溶かしながらゆっくりと大きくなってゆく。そのため自覚症状はなく、たまたま歯医者さんで撮ったレントゲンに写って見つかることが多い。あるいは時に大きくなりすぎて、腫れや痛みを生じる場合もある。また、そのような症状がないまま顔が変形するまで大きく腫れる場合もある。

 

原因は、歯の神経が腐り、それが歯根の先に膿をつくり、そこから「袋状」になるとも言われているが、はっきりとはまだわかっていない。膿のままで終わってしまうものや、歯根嚢胞になるのがあり成因が解明されてはいない。

明らかなことは、歯根嚢胞の原因は歯であり、その歯の神経は死んでいる、あるいは根の治療をしてなくなっているということである。

 

治療は歯の根の治療であるが、最終的には手術となることが多い。原因の歯は状態により残したり、抜歯となることもある。大きくなる前に、早期発見・早期治療が肝要である。

X線所見では、単房性のX線骨透過像である。
直径1cmほどの小さなもの 歯2本分ぐらい 歯3本分ぐらい
鼻や上顎洞にまで広がっている 下顎骨を垂直的にほぼ吸収し広がっている

含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞) Follicular Cyst

 

含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞)は、埋伏歯の歯冠を含んで形成される嚢胞で、歯の元である歯胚というものを包んでいる袋状の上皮から生じます。

 ほとんど無症状で骨を溶かしながら大きくなります。大きくなるにつれて顎骨の無痛性膨隆や、骨の一番外側の皮質骨が吸収されて、骨が紙のようにペコペコと感じたり(羊皮紙様感)します。

 歯の交換期、つまり永久歯の萌出期(6~15歳)の年齢に多くみられます。歯を巻き込んで大きくなっていきますので、該当する歯が生えてこないということで気が付くことが多いようです。しかし、自覚症状に乏しく発見が遅れる場合もあり、高齢者でもみられることもあります。
しかし、実際には、歯の交換期に当たる、学童期から思春期の年代よりも、当院では20歳台以降の患者さんの方が多いのが現状です。 歯が生えてこない、あるいはたまたま歯科医院でレントゲン写真を撮って偶然見つかったという場合がほとんでです。それゆえに歯科に関する知識の普及と歯科での検診が重要になるのです。

 部位は上顎では7割ぐらいが前歯部、下顎では半数以上が智歯部(親知らず歯)によく見られますが、その他下顎臼歯部、上顎智歯にも発生します。

診 断
X
線所見でほぼ分かります。代表的なのは、歯冠を含む類円形の境界明瞭な単房性透過像として見られます。
しかし、嚢胞性エナメル上皮腫や腺様エナメル上皮腫、その他の顎嚢胞との鑑別を要する症例もある。

治療法

基本的には手術しかありません。ただし、その方法は年齢、部位、大きさなどにより2つの選択肢があります。

1.開窓療法

嚢胞内永久歯の保存をはかったり、嚢胞の大きさを縮小させる目的で行うものです。

つまり、嚢胞腔を開窓し、正常歯列にあるべき歯の場合には、歯を正常な位置へ萌出誘導します。また、摘出により顎骨の骨折が危惧され、移植など手術が大きくなったり、顎の成長発育に障害を来たす恐れがある場合に開窓療法を選択し、先ずは嚢胞を小さくします。この場合の多くは、後に嚢胞摘出術をすることになります。

2.嚢胞摘出術
開窓療法の適応でない症例に対しては、抜歯を伴う嚢胞摘出術を行います。

つまり、埋伏歯が過剰歯である場合や、歯が逆向きであったり、歯根の屈曲が強い場合などで萌出誘導が不可能な場合は、抜歯して嚢胞を摘出します。

7歳女児。下顎枝全域に拡がる嚢胞 開窓手術後1ヶ月
嚢胞腔はかなり小さくなってきている。

エナメル上皮腫


エナメル上皮腫は、口腔領域(顎骨)に発生する歯原性腫瘍のなかでもしばしば遭遇する代表的な腫瘍である。

近年、本腫瘍に関する新しい知見が数多く加えられており、病理組織学的にも1992年にWHOでは歯原性腫瘍の分類を改定した。

 

1. 好発年齢

30歳代とされている。当科では、初診時年齢は1775歳と広い範囲に分布し、平均年齢は42.0歳であった。年齢分布は20~ 40歳代が多かった。

2. 性別は、男女比12

3. 発生部位

下顎骨体部から下顎枝部に好く発生する。

4.初発症状

腫れがもっとも多く、痛みを伴わずに大きくなることもそのため、たまたま撮った歯科のX線で発見されることも多い。

5.            X線所見

その形状は多房性のX線骨透過像が最も多く、他に単房性・類円形、単房性・辺縁不整がある。


骨の中にブドウの房のように見える
多房性の骨透過像

CTでも同じように多房性で
外側に豊隆した腫瘍が見られる

6.埋伏歯との関係

一般的には、6割程度に腫瘍内に埋伏歯が含まれているといわれている。若年者の症例では埋伏歯を伴うことが多く、本腫瘍がエナメル器、あるいは歯堤より発生する可能性が高いとされてきた。高齢者の場合の本腫瘍の病態論では、長期にわたり病変が顎骨内に存在したために細胞が化生もしくは退行性変化をした可能性や、エナメル器以外のマラッセの上皮残遺や口腔粘膜に由来する可能性があるといわれており、高齢者では埋伏歯を伴うことがほとんどないとされている。

7.病理組織像

1992年にWHOは歯原性腫瘍の分類の改定を行った。そのうちエナメル上皮腫については、近年、新たな知見が数多く加えられたため、内容が大幅に変更された。充実性の組織像を呈する濾胞状と叢状のタイプ、嚢胞状形態をとった単嚢胞型、その亜形である棘細胞性タイプ、顆粒細胞タイプ、その他の亜型が記載されている。単嚢胞型エナメル上皮腫はVickers Robinson によって提唱された概念であり、1988年にAckermannらは、これらをさらに3型に亜型分類している。つまりgroup1は嚢胞状形態を呈し、上皮は嚢胞壁内には浸潤していないもの。group 2は上皮が嚢胞壁内に叢状に増殖しているもの。group 3は上皮が外側へ浸潤増殖しているもので再発を起こしやすいとされている。そのうち濾胞状に増殖しているものがgroup 3a、叢状に増殖しているものがgroup 3bである。

8.治療法

治療は手術となる。手術方法は可及的に根治を目的に健常組織を含めて顎骨を切除することが推奨されているが、顎骨の成長期の症例では開窓療法や摘出術などの保存療法を選択することもある。しかし保存療法での再発率は2668%、根治療法では612%と保存療法では再発率が高いことが報告されている 。病理組織学的には比較的再発が少ないとされている単嚢胞型の場合でもgroup3は再発を起こしやすいことが知られている。自験例においてgroup3が最も多かった。しかしそれぞれのgroupは臨床的および生検所見では判断できないため保存療法でなく根治療法を行うことが望ましいと思われた。また再発を繰り返すことによって組織学的に悪性転化することも知られている。そのため手術法の選択は慎重に行われるべきである。

前癌病変 ~癌の予備軍~

正常なものがある日突然、癌に変わるのか、ある段階を経て癌になっていくのかは未だ解明されていない。しかし、白板症(はくばんしょう)、紅斑症(こうはんしょう)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、乳頭腫(にゅうとうしゅ)といった前癌病変から癌になることは知られている。

ここでは、口腔の粘膜にできる扁平上皮癌の予備軍といわれる前癌病変について解説する。

口腔粘膜に見られる白色や赤色の病変・状態をいうが、他にも同じような見た目をした病変もあり、診断には病理組織検査が必要となる。診断の後の、定期検診そして状態の変化に応じた早急な処置が必要になるので、専門医にかかりたい。
扁平苔癬
鑑別しなくてはならないものには、口腔癌、カンジダ症、口内炎、梅毒性潰瘍、慢性剥離性歯肉炎などがある。

前癌病変が、癌になる確率は種々の報告があるが、白板症や扁平苔癬は概ね10人に1人の割合と思っていただければよい。紅斑症はそれよりも高い確率のような実感がある。原因は、たばこ、アルコールといった癌の原因と同じものが挙げられる。他には、金属アレルギーなども。しかし、はっきりとした原因は不明であり、その治療法も確立されてはいず、癌になったら癌治療をすることになる。

現在の癌治療では、初期癌の治癒率はほぼ100%に近づいており、癌になった時点での、的確な診断と治療が望まれる。癌治療については、「口腔がん」のページをご参照下さい。

口腔がん

1.はじめに

癌は最近では様々な遺伝子の異常が幾つもの段階を経て発生・進行し、種々の遺伝子異常のパターンによって規定されていると考えられている。特に口腔がんに関しては、発癌因子として、喫煙、アルコールなどの化学的因子、そして歯や不良な補綴物などによる外傷性の慢性刺激など多種多様である。

口腔がんは、主として口腔粘膜上皮より発生し、組織学的には扁平上皮に由来するものが圧倒的に多い。全癌に対する口腔癌の割合は、1~3%程度で、頭頸部癌のうちでは35%程度である。

2.どこに、どんな「がん」が?

発生部位では舌がもっとも多く、次いで歯肉(歯茎)に発生することが多い。他に頬粘膜、口蓋、口底といったその他の口腔粘膜、さらに顎の骨や唾液腺にも発生する。

そのため、当科のデータでも、癌の組織型は口腔粘膜からの扁平上皮癌がもっとも多く、全体の85.6%を占めていた。他には腺様嚢胞癌や粘表皮癌といった唾液腺がん、さらに悪性リンパ腫や転移性癌もみられる。

舌がんのいろいろ
白色の板状 腫瘤状 潰瘍 内側に深く入り込む
見た目も、色々な形があり。痛みなどの症状の出方にも違いが出る。進行のスピードにも違いがある。
それにより、治療法や予後にも影響してくる。
歯肉(歯茎)がんのいろいろ
*クイズ*
どれが「がん」でしょう? 答えは下に






10 11 12
答え:歯肉扁平上皮癌 1,2  唾液腺癌 4  骨肉腫 7  他臓器からの転移がん 5,12
    歯周炎からの炎症性の歯茎の腫れ 6,7,8,9,10,11
口底がんのいろいろ
真ん中に潰瘍を作る口底がんの代表例。 白い板状。 いぼ状。
歯肉と口底の境界
に沿って潰瘍あある。
高度進展がん。 舌下腺にできた唾液腺がん。

年齢別では50~70歳代に多いが、最近では高齢化に伴い70歳代、80歳代の割合が増加傾向にある。ちなみに当科のデータでは、17~92歳で平均年齢65.6歳であった。男女別では男性では29~86歳、平均63.5歳で40歳代から症例数が増え始め70歳代をピークに年齢とともに増加する傾向がみられた。女性は17~92歳、平均67.9歳で50歳代から症例数が増え始め70歳代をピークに年齢とともに増加する傾向がみられた。また、女性では80歳代にも多くの症例がみられた。扁平上皮癌だけでは年齢は29~92歳、平均66.2歳であった。男性では40歳代~70歳代に多くみられ、平均年齢62.3歳。女性では50歳代~80歳代に多く、平均年齢70.8歳であり、平均年齢の縮図を見るかのようである。

また、ごく初期に発見されることはめずらしく、多くは周囲に浸潤した状態で、疼痛を伴った腫瘤や潰瘍形成を主訴に来院する。がんの広がりや進行度の指標には、UICCTNM分類や臨床病期別Stage分類がある。それによると、当科においてはStage18.0%Stage32.8%Stage23.8%Stage25.4%であった。全体としてはStageⅡがもっとも多かったが、StageⅣの進行癌も約1/4の症例にみられた。原発巣は上皮内癌は少なく、初期が2割、中等度が5割、進行癌が3割で中等度のものがもっとも多く、また頚部(首)リンパ節転移はなしが7割、ありが3割であった。

3.治療について

癌治療は年々進歩し、その治療法も徐々に確立されつつあり、適切な治療法により予後も改善されてきているが、早期発見、早期治療が最も重要であることに変わりはない。

一般的には、手術)、放射線療法そして化学療法の単独療法あるいはいずれかを組み合わせた併用療法が行われる。

しかし、最終的には、組織型、部位、大きさ、悪性度などの癌の要因と、年齢や全身状態、さらに社会・経済的要因など、全てを考慮し、われわれと患者さんおよびご家族とで最終判断ということになる。

私見を言えば、癌の要因としては、癌の悪性度は最も重要な因子と考える。初期がんであっても、治療が一応終わって間もなく、再発や転移を来たしたり、さらに、それを繰り返し、不幸な結果を招くことがある。これらの多くは、強悪性のがんである。これが、小さくとも「がん」である所以であり、がん治療の難しさである。

口腔扁平上皮癌の治療成績をKaplan-Meier法による5年累積生存率にて検討した。全例では65.4%StageⅠでは98.1%StageⅡでは73.7%StageⅢでは65.5%StageⅣでは38.3%であった。初期がんのstageⅠの方でも、全員が助かるとは言えないのだ。

初期の舌がん。切除するのが最も一般的で、確実である。
歯肉がんは、抗がん剤がよく効く場合が多い。
抗がん剤により、がんが縮小したため、縮小手術が可能になった。
抗がん剤で、がんが消失する場合も。
頚部(首)のリンパ節に転移している場合には
首の太い血管と筋肉の間の
リンパ節を摘出(郭清)しまければならない。

4.最後に

がん治療は、日進月歩の時代です。治るべくして治っているがん患者がいる事実を知って頂きたい。もう少し早く来てくれたらそんな思いはあまりしたくないものです。 ちゃんと検査して、ちゃんと治療すれば、ちゃんと治ります。 がんは治せる病気です。

シェーグレン症候群と口腔乾燥症

 最近「ドライマウス」という言葉をよく耳にする。ドライマウスの原因は、薬物、糖尿病、シェーグレン症候群、老人性萎縮、ストレスなど多彩であり、ドライマウスはう蝕や歯周疾患、舌痛など様々な障害の誘因となる。しかし、ドライマウスだけを訴えて受診する患者さんは少なく、初期の症状を見逃してしまい、病状が進行してから発見される場合も多い。

口腔外科では直接口の中の症状を診ることから、患者さんのドライマウスの症状を早期に発見し、治療することが可能な診療科の一つである。

■ドライマウスとは

  ドライマウスとは、唾液の分泌量低下や性質、性状が変化することにより起こる口腔乾燥症状であるが、原因や症状は多彩で診断・治療に苦慮することが少なくない。口腔外科領域においては、ドライマウスが誘因となるう蝕や歯周疾患、口腔粘膜炎の治療と予防を行うとともに、原因となっている疾患、薬剤、生活習慣等をよく把握し、対処することが重要である。

分類と原因

 ドライマウスの分類はまだ統一されたものがない。
以下にわれわれが考えるドライマウスの分類を説明する。

 広義のドライマウスには唾液分泌量の低下を来しているもの(唾液分泌量低下症:狭義のドライマウス)と来していないものに分けることができる。

唾液量の低下を来していないものには、唾液の粘稠度異常症と口腔内の保湿度低下症が含まれる。
粘稠度異常症とは唾液分泌量は正常であるが、粘稠度の異常により口腔内の「ネバネバ感」や「ザラザラ感」を訴える場合で、従来から言われている口腔異常感症とは区別する。
保湿度低下症とは唾液分泌量は正常であるが、唾液が口腔内に留まっていないために生じる口腔内の乾燥症状である。口呼吸による口腔乾燥症状がこれに当たると考えている。

唾液分泌量低下症には唾液分泌能低下によるものと(唾液分泌能低下症)と体液量減少によるものがある。前者にはシェーグレン症候群、SLEといった自己免疫疾患によるもの、唾液腺の炎症や腫瘍に続発するもの、放射線治療後に見られるもの、加齢やストレスによるもの、薬剤の副作用によるものが挙げられる。後者は糖尿病や尿崩症によるもの、利尿剤や発汗によるものが含まれる。

●症状

  初期には「口の中がかわく」、「口がねばねばする」などの症状を訴えるが、次第に舌のざらつき感や舌痛、義歯の装着不良、味覚異常などを訴え始める。患者さんはこの時期に最く多く来院する。
また、ドライマウスの進行により舌乳頭の萎縮、口腔粘膜の発赤や口角炎などがみられるようになる。 さらには続発症としてう蝕や辺縁性歯周炎の増加・進行とこれらによる口臭、口腔カンジダ症などを生じる。

 シェーグレン症候群によるドライマウスも基本的には同様な症状がみられるが、これらに加えて関節痛、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、高γグロブリン血症など全身性に症状がみられることもある。



●診断

テキスト ボックス: 表2.ドライマウス問診表  1.	口の中がかわく  2.	口がカラカラする  3.	水が飲みたい  4.	夜間におきて水を飲む  5.	乾いた物がかみづらい  6.	たべものが飲み込みづらい  7.	口の中がねばねばする  8.	口がねばって話しづらい  9.	舌が痛い  10.	舌がザラザラする  11.	味覚異常  12.	入れ歯がいれていられない     当科においてドライマウスを疑う患者には、問診による自覚症状のチェック(表2)と他覚所見の観察、ガムテストによる唾液分泌量の測定を行う。
自他覚所見があり、ガムテストで10ml10分以下であれば唾液分泌量低下症と診断する。また、併存疾患や内服薬をチェックし、唾液分泌能に異常があるか否かを判断する。
自覚または他覚所見はあるがガムテストが10ml10分よりも多い場合は粘稠度異常症や保湿度異常症を考える。

 唾液分泌能低下症と診断された場合、シェーグレン症候群による症状なのか、他の原因によるのかを鑑別しなければならない。
シェーグレン症候群の診断には1999年の厚生省改定診断基準1)を用いる。診断の項目によっては他科との連携が必要となる。


●治療

  ドライマウスの原因を特定することが、治療指針を決める上での重要なポイントであり、原疾患が明らかな場合には、その治療を最優先に行う。しかし、自己免疫疾患や腫瘍性病変、放射線治療後や加齢など根本的治療が難しい場合も少なくない。薬剤性が疑われる場合には、その薬剤の中止や変更について関連医師との連携が重要である。原疾患が難治性の場合には根治的な治療法がなく、対症療法によって症状の緩和を図ることになる。人工唾液、含嗽薬、トローチなどが用いられてきたが効果は十分でなかった。しかし、最近発売されたオーラルバランスRは比較的味がよく、持続時間も長く有効である。

 薬物療法としては、アネトールトリチオン、漢方薬、唾液腺ホルモン、塩酸セビメリンなどが用いられる。塩酸セビメリン(サリグレンR)については、次の項で当科の経験を踏まえ、詳しく紹介する。

■ シェーグレン症候群の治療

ドライマウスとシェーグレン症候群

 当科で唾液分泌能低下症と診断した約70%をシェーグレン症候群が占める。
シェーグレン症候群では、腺外型の症状として関節痛、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、高γグロブリン血症など全身性に及ぶことがあるので、他科と連携して治療していくことが必要となる。

 腺外型のシェーグレン症候群にはステロイド薬や免疫抑制剤の投与が行われるが、腺症状に対しては対症療法が主となる。従来の口腔乾燥に対する対症療法は各種含嗽剤や人工唾液、漢方製剤、唾液腺ホルモン、アネトールトリチオン等が使われていたが、とれも有効とは言い難かった。

2001
9月に発売された塩酸セビメリン(サリグレンR)は唾液腺のムスカリン性アセチルコリン受容体を刺激して唾液分泌を促進する薬剤で、口腔乾燥症状の改善率も高い。

塩酸セビメリンの効果(自験例)

 シェーグレン症候群によるドライマウスと診断して、本薬剤の投与を行った51例の治療成績を紹介する。
性別は男性2例、女性49例で、平均年齢は65.8歳(34?84)であった。平均投与期間は22.7週(6? 37)であった。投与量は90mg/日または60mg/日とし、90mg/日例は15例、60mg/日例は36例であった。3か月以上投与を行った37例の唾液分泌量増加率は平均117.2%で、59.5%に唾液分泌量の改善がみられた。
増加は投与後2週ぐらいから現れ始め、46か月ぐらいまでみられた。しかし、効果が現れ始めるまでの期間は症例によりばらつきがみられた。
自覚症状は64.8%で改善がみられた。自覚症状の中で夜間乾燥感と舌のざらつき感は最も遅くまで残り難治性を示した。
他覚所見は81.8%で改善がみられた。他覚所見では舌苔と舌乳頭の萎縮が多くみられた。

唾液分泌量増加率と自他覚症状改善度を合わせた有効率は75.7%であった。

副作用は51例中18例、35.3%に延べ26件がみられた。26件中23件は消化器症状で特に嘔気・嘔吐は18件で最も多くにみられた。嘔気・嘔吐は投与開始直後からみられ、2週間ぐらいすると消失する傾向があった。そのため、私は投与開始直後に軽度の嘔気がみられても患者が我慢できる程度であれば継続投与を指示し、しばらくすると消失することを説明している。しかし、中等度以上副作用が出現した7例は投与を中止した。7例中4例には嘔気または嘔吐がみられ、1例には下痢と縮瞳、1例には軽度のめまいを伴うふらつき、1例には軽度の嘔気を伴う味覚異常がみられた。下痢と縮瞳がみられた1例を除く6例の症状は本薬剤の服用開始後1?2日以内に発現し、その後は2時間程度継続して消失した。これらの症状は投与中止により消失し、再燃は認められなかった。

 このため、嘔気・嘔吐の対策が必要になる。
本薬剤による消化器症状はムスカリン受容体刺激によるものでいわゆる慣れを示すことが多い。実際に自験例においても投与開始後2週間ぐらいすると消失する傾向がみられた。そのため初回投与量を60mgとしてムスカリン受容体刺激を抑え、1か月以上経過を観察した後に増量する試みを行った。また、各種消化器官用薬併用して嘔気・嘔吐の出現を比較した。比較は塩酸セビメリン90mg/日群(A)、塩酸セビメリン60mg/日群(B)、塩酸セビメリン60mg/+ドンペリドン(ナウゼリンR20mg/日群(C)、塩酸セビメリン60mg/+塩酸ピレンゼピン(ガストロゼピンR50mg/日群(D)、塩酸セビメリン60mg/+マレイン酸トリメブチン(セレキノンR200mg/日群(E)で行った。各群別ではA47.4%B33.3%C28.6%D13.3%E10.5%であった。
この結果より嘔気・嘔吐の対策として初期投与量を60mgとして慣れた後増量するか塩酸ピレンゼピンやマレイン酸トリメブチンの消化器官用薬を併用するのがよいと考えられる。しかし、塩酸ピレンゼピンは唾液分泌を抑制する作用もあるので注意を要する。

●最後に

 口腔乾燥に悩みながらも診断されず、いくつかの診療科をまわった後に当科を訪れる症例を多く経験する。また、口腔乾燥が病気の一つであるという認識がなく、症状がかなり進行してから見つけることも少なくない。シェーグレン症候群の主徴は目と口の乾燥症状であり、口腔の治療に直接かかわる歯科・口腔外科領域で早期に発見し、患者の日常生活の改善や症状の緩和など、QOLの向上に努めたい。

参考文献:

岩渕博史他:シェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症状に対する塩酸セビメリンの効果日口粘膜誌 852-57, 2002.

藤林孝司他:シェーグレン症候群改訂診断基準厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班平成10年度研究報告書:135-138,1999.

角田博之他:シェーグレン症候群患者におけるオーラルバランスR・バイオティーンgelの効果Dental Diamond, 26158-161, 2001.

下顎骨骨髄炎

はじめに

近年、歯科医療の進歩と抗生剤の発達により、歯性骨髄炎は無くなったのではないかと、錯覚された時代もありました。確かに、正書・教科書に書かれているような典型的な症状を呈する急性化膿性骨髄炎に遭遇する機会はほとんどないと言っていいでしょう。しかし、最近、とくにここ10年余り、骨髄炎がひそかに増加していることは周知の事実となっております。肺結核が増加してきていることが緊急報告されマスコミでもかなり取り上げられたのも記憶に新しいところです。これは正に、肺結核然り、MRSA感染然り、そしてわれわれ歯科医師にとって骨髄炎は、病原菌と抗生剤などの化学療法剤との戦いの歴史と言えます。

骨髄炎は「炎症の癌」と私は考えておりますし、骨髄炎から癌化したという報告もあります。ここでは、下顎骨骨髄炎に対する診断を中心に、治療法や注意したい点について、「下顎骨骨髄炎」を私なりに再考してみたい。

 

1.下顎骨骨髄炎の原因
  1)歯性:歯牙を経由しての顎骨骨髄への口腔常在菌の感染。
(1)深い齲蝕、根尖性歯周炎
(2)歯周炎
2)薬物性:骨壊死を伴う場合がある。
(1)歯髄失活剤
(2)根管洗浄液・消毒薬・治療薬
(3)歯科用以外の薬物の誤飲
3)二次性
(1)外傷(手術)性:下顎骨骨折、抜歯窩治癒不全などから口腔常在菌が感染したもの。
(2) 放射線性:骨組織自体の障害、骨への血行障害、骨髄機能障害によるもの。そのため、宿主の免疫能の低下、易感染性となるため、顎骨に放射線が照射されてから1年間は抜歯は避けるのが賢明。放射線により骨髄炎が必発するというものではないが、その可能性は高くなり、さらに歯性病巣や抜歯などの外科処置により二次的に発症する場合が多い。
(3)顎骨病変:嚢胞、腫瘍あるいはそれら類似病変が元々存在しており、その周囲が感染した場合。骨髄炎との鑑別疾患としても重要となる。

骨髄炎を発症する場合とそうでない場合があるが、宿主の免疫能が関係しているとは思うが、運が悪かったで片づける問題ではなく、安易な抗生剤の使用と症状を見落とすことだけは避けたいものである。

2.下顎骨骨髄炎の診断方法

1)血液検査:慢性期と急性期とでは違うが、炎症の指標として一般的には白血球数、赤沈、CRPなど。また、他疾患との鑑別という意味で、RALEALPなど。


2)細菌検査:排膿していれば簡単に施行できる検査。ただし、顎骨内の細菌検査となると骨削除が必要であり、抜歯の際や下記4)の病理組織学的検査と併せて行うことが多い。検出される菌としては、口腔常在菌が主であり、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、嫌気性菌などが検出されるが、インフルエンザ菌、結核菌も検出されることがある。また、全く菌が検出されない場合もある。


3)画像検査

(1)単純X線写真:読影のポイントは、下歯槽管周囲の透過性の亢進、いわゆる虫食い状陰影の有無、でしょうか。

パントモX線写真は骨髄炎の診断には不可欠であり、最も簡便な検査法である。他疾患との鑑別、原因の検索、病変の範囲を知ることができる。

(2)骨シンチグラム:骨の炎症を描出。

骨髄炎の診断における骨シンチグラムの有用性は周知の事実である。病変の正確な範囲の描出にはMRIに比べ劣るが、骨の病的状態や骨髄炎の有無を診断するには実に有効な検査といえる。写真では病変部が黒く集積している。

(3)CT:皮質骨における微細な変化や、腐骨など石灰化病変の描出に優れている。

(4)MR:骨髄炎の病理的・質的診断の可能性あり。範囲を診断するには有効。

MRIにより骨髄の質的変化がみられ、炎症の範囲もより正確に把握できる。これにより、手術は飛躍的に確実性が増した。写真ではT1強調画像(左)とT2強調画像(右)ともに病変部は低信号域として描出されている。
詳しくはこちらから

 4)病理組織学的検査:最終的確定診断となる。類似疾患との鑑別には必須。

以上の検査を総合的に判断し、他疾患との鑑別をし、次の治療方針を決めなければならない。

3.下顎骨骨髄炎の分類
1)病期別分類
(1)急性期
(2)亜急性期
(3)慢性期
2)病態別分類
(1)化膿性:病期別分類では急性期に相当する
初期;発熱・腫脹・疼痛。
進行期;上記症状の増悪。
弓倉症状、Vincent症候、菌血症・敗血症。
(2)腐骨形成性:病期別分類では亜急性期に相当する。
(3)腐骨分離性:病期別分類では亜急性期?慢性期に相当する。
(4)硬化性:化膿もせず、急性化もせずに無症候のまま経過したもの。

3)病理組織学的分類:われわれの研究によればMRIでも骨髄炎の病理組織学的診断の予測ができる可能性がでてきた。

 

T1WI

T2WI

Gd効果

膿瘍

低信号

高信号

?

肉芽組織

低信号

高信号

線維化

低信号

低信号

?

骨新生

低信号

混合

±

(1)膿瘍形成型
(2)肉芽組織型
(3)線維化・骨新生型

4)進行度別分類:下歯槽管を基準とし炎症がどこまで波及しているかで分類。下歯槽管まで波及しているタイプではオトガイ神経麻痺が出現する場合もある。骨周囲の軟組織まで炎症が波及してしまったもので、初発であればいいが、炎症(腫脹など)の消退を何度も繰り返している再発例はほとんどの治療に抵抗性を示し予後不良となる(瀰漫性軟組織合併型)。
(1)下歯槽管上方型
(2)下歯槽管型
(3)軟組織合併型
(4)上記各々につき、限局性あるいは瀰漫性

以上の分類は、一般的なものではなく私的分類ですので、ご注意下さい。ただし、骨髄炎に対する普遍的な治療法が決まっていない現在において、この様な分類をしながら治療方針を模索してゆくことは非常に有意義と考える。検査結果や分類からフロー・テャート式に治療方針が決まればと考えております。

 

4.下顎骨骨髄炎の治療

1)原因療法:根管治療、歯周治療、抜歯など。

2)対症療法:第1選択としては、薬物療法であるが、全症例に有効とはならないのが現実である。1つの治療法に固執せず、薬物療法が無効な場合には、手術療法など早めに他の治療法への変更あるいは併用療法を考える。

(1)薬物療法:抗生剤の投与。症状・状態により薬剤の選択や再評価をしてゆくが、概ね3か月が目安。主に使用する薬剤としては、ペニシリン系、セフェム系、クリンダマイシン、14員環マクロライド系、ニューキノロン系。

(2)局所洗浄療法(イソジン灌流法など):手術療法の後療法として用いることが多い。整形外科では一般的な処置。

(3)手術療法:皮質骨離断術+掻爬

               下顎骨離断術
4) 高圧酸素療法

5.下顎骨骨髄炎と鑑別を要する疾患

 1)下顎骨中心性癌、骨肉腫
2)線維性骨異形成症
3)顎骨腫瘍(エナメル上皮腫、顎骨中心性血管腫など)
4)顎関節症
5)智歯周囲炎、根尖性歯周炎、歯周炎

 

以上挙げた鑑別を要する疾患の内、上記1)の癌に関しては、どんなことがあっても見落としてはいけないものである。極論を言えば、骨髄炎で下顎骨を半分切断しても死なないが、癌は下顎骨のみならず命までも切り取ってしまうことがあるからである。
また、上記4)、5)に関しては、症状が類似していることより注意を要する。

おわりに

80歳まで20本運動や、歯周療法・歯内療法の発達により以前には抜歯していた歯を保存的に残す方向にあります。このことは、患者のニーズにもあい誠に素晴らしいことですが、反面無理をして保存するケースもみられます。また、インプラント全盛時代と言われる今日、適応症を誤った無理な設計の末に陥没した顎提のみが残ってしまったケースも後を絶ちません。それにより、骨髄炎を発症している場合も少なからずあることは確かです。われわれ歯科医師に求められるものは、もちろん虫歯の痛みをとることの他に、顎関節症や審美歯科にみられる、あまり1本の歯だけにとらわれない、口腔・顎全体をバランスをもってトータル・オーラル・ケアしてゆく時代ではないでしょうか。80歳まで20本運動は歯科医師会が提言し、そして社会は歯科医師に何を求めているのか。

「たかが1本、されど1本、やはり1本。」虫歯1本のせいで下顎骨半分なくなってしまったら...もう一度考えてみませんか、「下顎骨骨髄炎」。

*宇都宮市歯科医師会広報誌に掲載した記事を抜粋。

顎関節症

1. はじめに

  現在、顎関節症は増加の一途を辿っているとされ、また一般の人々の顎関節症に対する関心や認知度も高まってきています。さらに1995年より学校歯科健診に顎関節症の診査項目が導入されたこともあり、ますます顎関節症の重要性は高まっていくものと思われる。

2.定義と分類

  1996年、日本顎関節学会は「顎関節症とは顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害、または顎運動異常を主要症候とする慢性疾患の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円板障害、変形性関節症などが含まれる。」と定義している。
顎関節症の分類は、病態別に分類されている。(下に日本顎関節学会の症型分類を示します。)

 
3.原因

 近年、顎関節症の原因は咬合異常だけでなく、もっと多くの要因により生じると考えられ、また単独の要因だけでなく複数の要因が積み重なって生じると考えられている。これらの要因により咀嚼筋の機能亢進を起こし、筋自体あるいは関節組織への過剰負荷が生じ、顎関節症を引き起こすと考えられている。また米国口腔顔面痛学会(AAOP)では、病因因子を3要素に分類している。発症リスクを高める「素因」、発症のきっかけとなる「初発因子」、そして症状を長引かせ増悪させる「寄与・永続化因子」である。これらを念頭に置き各患者にどの原因が当てはまるのか評価していく必要がある。

4. 診査・診断

顎関節症の3大症状は、関節雑音、顎関節や咀嚼筋の疼痛、開口障害である。

 関節雑音にはクリックとクレピタスがあり、Ⅲ型に分類される。クリックは開閉口時のカックンという音で、前方に転位していた関節円板が開口時に復位する際に生じる。

クレピタスはジャリジャリ、ミシミシという音で、関節円板に穿孔がある場合や復位をともなわない関節円板転位の晩期にみられる。

 顎関節症で生じる痛みは通常、自発痛ではなく開口時や咬合時などの顎運動時に生じる。ただし、筋症状が著しい場合は生じることもある。筋性の顎関節症(Ⅰ型)では咀嚼筋の過緊張を認め、同部の運動時痛および圧痛を認める。痛みは深部体性痛のびまん性鈍痛であるため患者は疼痛部位を特定できない場合が多い。関節性の顎関節症(Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ型)は何らかの原因により顎関節部に過剰な負担が加わり、顎運動時に顎関節部に痛みを生じる。

 開口障害は最大開口時の上下前歯切端間の距離を測定し、40mmを下回る場合は開口障害があると考える。開口障害の原因は関節円板転位によるもの、筋緊張によるもの、疼痛のため開口量が制限されている場合の3つが考えられる。

 その他、交通外傷等により顎関節部の疼痛や開口障害を来しているものの多くはⅡ型に分類される。またⅣ型の変形性顎関節症は、X線写真により下顎頭の退行性変化の有無の確認を行う。ただし、画像所見による形態変化は病状が進行してしまった状態や、長期にわたり関節に負担がかかり適応性変化をした状態を捉えている可能性が高いとされている。Ⅴ型は心因的要因が強く関与していると言われている。

 以上、先述した病態別症型分類に基づいて診断してゆけばよいことになる。しかし、実際臨床の場においてこれらの病態が単独で存在していることは少なく、複数の病態が存在していると考えたほうがよい。

5.  治療法

  顎関節症の治療に当たっては、病態および原因の理解そして明確なアウトカムの設定が必要である。なぜならば、顎関節症は慢性疾患であり、いわゆる生活習慣病と言ってもよく、患者の自覚と患者自身が積極的に治療に参加することなくしては改善しないからである。

初期治療には低侵襲の薬物療法、スプリント療法、理学療法などがある。これらの治療後、症状の再評価を行い必要と考えられた場合、歯科的咬合治療、顎関節鏡による外科的治療を行う。

 また患者自身が家庭で行えるくいしばりや片側がみなどの悪習癖の改善、開口訓練、顎の安静、筋マッサージ、温罨法といったセルフケア(認知家庭療法)は大変重要であり、治療の効果を左右し、再発の防止にもつながる。Ⅲ型の内で関節雑音のみの場合には、病態が改善し雑音が消失することはないと言われおり、特に疼痛を伴わない場合には積極的治療は必要なく、この認知家庭療法のみで対応することが多い。

顎関節症の症型分類 (2001改定)

顎関節症Ⅰ型

咀嚼筋障害(咀嚼筋障害を主徴候としたもの)

顎関節症Ⅱ型

関節包・靭帯障害(円板後部組織・関節包・靭帯の慢性外傷性病変を主徴候としたもの)

顎関節症Ⅲ型

関節円板障害(関節円板の異常を主徴候としたもの)     a:復位をともなう関節円板転位  

b:復位をともなわない関節円板転位

顎関節症Ⅳ型

変形性関節症(退行性病変を主徴候としたもの)

顎関節症Ⅴ型

~Ⅳ型に該当しないもの

 

顎関節症の原因

 

1発症因子

2素因および永続化因子

A. 
特異的発症 行動
①     過開口
②     長時間の開口
③     顎、顔面の打撲
④     交通事故
⑤     硬固物の咀嚼

A
微小外傷を引き起こす
行動因子

①     ブラキシズム
②     顎の過剰使用
③     ストレス状態
④     顎や口を使う楽器の演奏
⑤     顎や頭部の不良姿勢

B
非特異的発症行動

①     ブラキシズム
②     顎の過剰使用
③     ストレス状態
④     顎や口を使う楽器の演奏
⑤     顎や頭部の不良姿勢

B
身体因子

①     関節の過剰可動性や結合織疾患などの全身疾患
②     咬合異常、骨格異常
③     同部の外傷や障害の既往
④     筋痛や顎の機能異常

C
心理社会的因子

①     うつ
②     不安
③     ストレス
④     社会様式
⑤     薬物依存
⑥     睡眠障害

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

 

一般に3種類の病型に分類されている。

①気道の閉塞による閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome :OSAS

②呼吸中枢からの換気応答の消失による中枢型睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea Syndrome :CSAS

③両者の混合型である。

なかでもOSASSAS全体の90%以上を占めるといわれており,上気道の解剖学的狭窄および上気道筋の緊張性の低下、舌根沈下による気道閉塞が原因で発症するといわれている。

1.OSASに対する治療は

 
経鼻式持続陽圧呼吸(Nasal  Continuous Positive Airway Pressure :n-CPAP)療法が一般的であるが近年,簡便さと治療効果の高さから口腔内装置治療(スリープスプリント療法)が注目を集めている。1984年にMeier-Ewertらがこの治療法の有効性を報告して以来、その後多くの施設でその有効性が示されている。口腔内装置を装着することにより下顎を前突させ上気道を拡大し,さらに舌筋の活性化によって上気道の開放を維持し、気道閉塞の発生を防止する。本治療は非侵襲的で優れた治療効果を有し、従来より用いられているn-CPAP療法と比較して廉価で、違和感が少なく、携帯および使用が容易などの利点を持つ。

2.治療の流れと装置の作製方法

 
身長、体重、肥満度の診査、口腔内診査、いびきや無呼吸などについての問診,頭部X線規格写真およびパノラマX線写真による診査を行う。その後、上下顎の印象採得を行い模型を製作する。それぞれの模型に厚さ約2mmのアクリル板を加圧圧接した後に歯頚部で切り離し、歯冠部全域を覆う上下顎別々のプレートを作製する。

それぞれのプレートを口腔内に試適し,プレートの下顎臼歯部に即時重合レジンを添加した後に最大前方移動距離の5070%の位置に下顎を移動させる。その位置でレジンを硬化させることで上下顎プレートを一体化させる。臼歯部の咬合面間に空隙が存在すると不潔になりやすくなり清掃も困難になるため,隙間なくレジンを補填し,研磨を行い完成となる。


装置前方観

装置側方観

装着時

装着前

装着後

使用上の注意事項

口腔内装置装着後は歯牙、顎関節部の疼痛、や違和感、流涎、口腔乾燥などを見る場合がある。そのため装着後早期の診査、調整を行う必要がある。また装着後に問題なく使用できていても定期的な診査を行う。

装置の長期使用により自然消耗、着色、異臭などが生ずることもある。歯牙のブラッシングと同様に装置の洗浄も重要であり、一定期間後に新たに作製しなおす必要もある。

3.口腔内装置の治療の適応・非適応

 
睡眠時無呼吸の発生には、中枢および局所の機能的および解剖的要因が複雑に影響しあっているために口腔内装置の効果も様々な要因に左右される。装置は下顎を前方位で固定し、上気道の閉塞を予防するために小顎あるいは下顎の後退傾向を示す症例に有効であるといわれている。

口腔内装置は歯牙を固定源として使用するために、残存歯が少ない場合(通常10本以下)や重度の歯周病を持つ症例には非適応である。また下顎を前方位にして固定するため、顎関節および咀嚼筋群に障害がおよぶ危険性がある。そのために顎関節症の既往がある症例は使用に際し注意が必要である。その他、口腔内装置装着後は口腔が閉鎖されるために呼吸のすべてを鼻呼吸に依存するようになる。そのため高度の鼻閉を伴う症例の使用も困難であると思われる。

4.作用のメカニズム

 
完全にメカニズムが解明されているわけではないが口腔内装置を装着し、下顎を突出することにより上気道の断面積の増大や軟口蓋の縮小、舌形態の変化、下顎下縁平面から舌骨までの距離の減少などが報告されている。

また装置装着により主要な舌突出筋であるオトガイ舌筋の活動性が増加し、吸息時の気道内陰圧による舌の引き込みによる上気道閉塞を防止していることも考えられる。

5.治療効果

 
口腔内装置装着前後の呼吸機能の変化を表1に示した。Yoshidaの報告によると中枢型無呼吸には無効であったが、閉塞型および混合型無呼吸に対しては優れた治療効果が得られた。睡眠時無呼吸症候群患者の大多数が閉塞型無呼吸であるために十分な効果が認められるケースが大半である。口腔内装置装着によって無呼吸低呼吸指数(AHI)、平均・最長無呼吸持続時間は有意に改善していた。また平均・最低酸素飽和度に関しても有意に改善していた。


最後に

平成16年度社会保険診療報酬の改定において新たに睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置治療の保険適応がなされた。

具体的には口腔内装置による治療が有効であると診断され、医科医療機関から提供された診療情報に基づき、口腔内装置作製を行うことになる。

この文言は口腔内装置治療が医科と歯科との連携を基本として行われなければならないことを明言している。口腔内装置治療は非侵襲的な保存的治療であるためファーストアプローチとして大きな期待がよせられている。これからも睡眠時無呼吸症候群の患者数は増え続けることが予想される。この疾患の特性、多様性を十分に理解しなければいけないことはいうまでもないが、常に医科と歯科で情報を共有し、より良い医療を提供していかなければならない。

 

参考文献

瀧本賢一郎、中川健三他 :睡眠時無呼吸症候群に対する歯科的アプローチ,歯界展望 98  435-440  2001

宮澤英樹、中塚厚史他 :閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対するスリープスプリント(SS)治療,信州医誌 50  71-75  2002

いびきと睡眠時無呼吸症候群 砂書房

睡眠時無呼吸症候群 医歯薬出版株式会社

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